医療分野コーチングプログラム
AEメディカル

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「介護人材育成2005」 掲載記事
(2005年 Vol.2 no.3)

効果的なスタッフ教育のためのコーチング
第3回 事例で学ぶ!
タイプ別介護スタッフへのコーチング(2)

株式会社 アニメートエンタープライズ 代表取締役
国際コーチ連盟マスター認定コーチ
有限会社AEメディカル代表取締役
野津浩嗣

今回は「自分の仕事に自信が持てないスタッフ」「自信過剰で一人で突っ走ってしまうスタッフ」に対するコーチングの仕方を紹介します。

事例1:自分の仕事に自信が持てないスタッフ

1)グループホームでの仕事に自信がないYさんとの面談

 あるグループホームで勤務するS主任は,2ヵ月前に特別養護老人ホーム(以下,特養)から異動してきたYさん(介護歴3年)に対して,仕事の流れをつかんできた様子だったので,“買い物前の献立会議の進行をする”という課題を与えました。
 それは,Yさんがこれまで働いていた特養では,給食室から出る食事を配膳して入居者の介助をしていればよかったため,「認知症の入居者と共に献立を考え,買い物をし,食事を作る」というグループホームケアの在り方をまだつかみきれていなかったからです。次に、S主任のYさんへのコーチングの場面を紹介します

Yさん:
主任、自立支援の観点で献立会議を進行するといっても、どのようにしてよいかわかりません。
S主任:
そうですか。では、今の段階でグループホームでの生活や入居者について、わかっていることは何かな?
Yさん:
9人の入居者の方の日頃の動きの傾向が、ようやくつかめたところです。それから一人ひとりの個性も少しずつわかってきました。
S主任:
異動してきて2ヶ月しか経っていないのに、さすが介護歴3年の経験者ね。では、「献立会議の進行をする」という課題について、わかっていることは何かな?
Yさん:
自立支援の観点から入居者の皆さんに献立を考えていただくということですが、どのような進め方が自立支援といえるのか、わかっていないような気がします。特養では3年間の経験があるのに…。
S主任:
ほかにはどう?
Yさん:
認知症ケアについて、本当は今まで何もわかっていなかったような気がしています。
S主任:
正直に話してくれてありがとう。ここまで話してみて、自分の中で何かはっきりしたことはある?
Yさん:
この間から思っていたことですが、改めて認知症ケアについて本を読んで勉強しようと思います。
S主任:
Yさんなら気がついていると思っていたわ。読んでみてどんなことがわかったか教えてね。

そして、2日後に出勤したYさんは、S主任に報告をしました。

Yさん:
改めて認知症ケアについて書かれた本を読んで勉強しました。認知症について勉強するのは初めてではないのに、書いてある内容が以前よりもわかるような気がしました。入居者の方が持つバックグラウンドについての理解なくしてはケアができないこと、認知症高齢者の自立を見守る“待つ介護”が大切であることを感じました。
S主任:
大切なことを抑えているわね。それで、献立会議の進行はどのようなことに注意して進めようと思っているか、聞かせてくれる?
Yさん:
入居者のHさんは、昔、食堂で働いていたので、献立会議の中心人物にしてみたいと思います。それから、料理の本も用意したいと思います。
S主任:
いいアイデアね。それから、会議はどんな雰囲気にしたい?
Yさん:
そうですね、どんな料理ができるか創造するのは楽しいことなので、にぎやかに楽しい雰囲気をつくりたいです。そうだ、入居者のKさんは商売をしていた人だから、Hさんと話がうまくからむように関わっていきたいです。
S主任:
ほかの人についてはどう?
Yさん:
そうですね。入居者のNさんは字を書くのが得意だということなので、材料をメモしてもらいましょうか。難聴ですが、スタッフがそばにいればできると思います。
S主任:
明日を楽しみにしているわ。

翌日の午後、予定どおり、買い物に行く前に入居者の皆さんとスタッフが夕食の献立はなにがいいか、献立会議で話し合いました。

S主任:
Yさん、献立会議の進行をやってみてどんなことを感じた?
Yさん:
びっくりしました。献立を決めるために話し合いをしたけれど、Hさんは昔の記憶がどんどんよみがえって、昔、食堂を数件掛け持ちで指導して回っていたことを話してくれました。「当時、“稲妻のおたつ”と呼ばれていたんだよ」と得意気でした。新年をもって自分らしさを貫いていたことが誇りだったようです。
それから、Kさんはコスト感覚が鋭いですね。私が「多少ぜいたくしてもいいのでは?翌日はお茶漬けにすればいいですから」と言ってみたら、「そうだね、質屋に行ってお金をつくればいいよ」ですって!あの時は皆、大笑いをしました。
S主任:
皆さんの生活氏がにじみ出ていて、素晴らしい進行だったと思うよ。そんなふうにできた自分をどう思う?
Yさん:
事前準備の大切さ、バックグラウンドの理解がポイントですね。うまくいったのは、事前に仁日をシッカリとしていたからだと思います。やってみてわかったのは、料理をする準備として献立を考えるということでしたが、実際にやっていたことは、入居者の皆さんの人生を語ってもらったことでした。生き生きして語る皆さんに、圧倒されました。S主任のねらいは、ここなんですよね?
S主任:
そうよ。やるじゃない。Yさんにはきっとできるって、私は信じていましたよ。

 本連載第1回「コーチングって何?」で説明しましたが,コーチングは,コーチがクライアントに質問を投げかけ,クライアントから答えを引き出す「質問型」のコミュニケーションです。
 そして,答えを引き出すだけではなく,部下が目標を達成するために自発的に行動するように促していきます。
 今回は,コーチングスキルの中から「質問のスキル」について説明します。

2)質問のスキル

 「質問する]ことの目的は,表面的には,情報を求めて情報のあいまいさを解決していくということです。しかし,それと同時に「質問する」ということには,「相手にコミュニケーションをとる意図を示す」という意味があります。
 ですから,相手の答えを求めるということは,仮に結果としてこちらが望むような答えが相手から返ってこないとしても,答えを求めたというそのことに価値があります。「私は,あなたの答えや考え方に関心があります」というメッセージを送っているということになるのです。
 さらに質問をする時には「あなたには,そのことを解決する能力が必ずあります]という雰囲気を前面に出して質問することがポイントです。次に効果的な質問のポイントを示します。

(1)質問のレパートリーを増やす
① 5種類の質問
  1. a. YES/NOで答える質問…答えが1つしかない質問
  2. b. YESだけを引き出す質問…念押し,確認をする質問
  3. c. 自由回答で事実を求める質問
  4. d. 選択肢で考えさせる質問…答えが複数ある質問
  5. e. 自由回答で意見・判断を求める質問
② オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

・オープンクエスチョン…6W1Hで聞く質問
 When いつ
 Where どこで
 Who 誰が
 What 何を
 Why なぜ
 Which どれを(選択肢)
 How どのように
  How much いくらで
  How many どのくらい
・クローズドクエスチョン…YES/NOで答える質問

③ 「限定質問」と「拡大質問」

① の5種類の質問は,a. YES/NOで答える質問,b. YESだけを引き出す質問,c. 自由回答で事実を求める質問という3つの「限定質問」と,d. 選択肢で考えさせる質問,e. 自由回答で意見・判断を求める質問という2つの「拡大質問」に分けられます。
例えば,「りんご」を例にすると,それぞれ次のような質問になります。

  1. a. 「りんごは好きですか?」
  2. b. 「りんごは好きでしたよね?」
  3. c. 「最近,りんごを食べたのはいつですか?」
  4. d. 「りんごはどうやって食べるのが好きですか?」
  5. e. 「りんごが嫌いな人をどう思いますか?」
④ 「過去質問」「否定質問」と「未来質問」「肯定質問」
過去質問・否定質問とは,「あの時,あなたは〜をできなかったの?]「どうしてあの時,〜をしてしまったの?」というように過去のこと,マイナス面についての質問です。
未来質問・肯定質問とは,「今後,あなたは〜すれば〜できるかな?」「次は,どうすればうまくいくかな?」というように未来のことを「〜できる]といったようにプラス面から尋ねる質問です。
(2)「質問のスキル」活用のポイント
① 「質問」と「詰問」は違う
例:「なぜできなかったの?」「どうしてこんなことをしたの?」
  ・形は質問だが,相手をとがめるニュアンスが強い。
  ・弁解や言い訳を誘発…建設的コミュニケーションになりにくい。
 ⇒「今の段階で…(略)‥わかっていることは何かな?」
② 「限定質問」より「拡大質問」が効果的
  ・「拡大質問」は,より深く考えさせ,より多くの情報を引き出す。
 ⇒「課題についてわかっていることは何かな?」
  「ここまで話してみて…(略)・‥はっきりしたことはある?」
③ 「過去質問」「否定質問」より,「未来質問」「肯定質問」が有効
例:「どうしてできなかったの?」(過去・否定)
 ⇒「どうすればできたんだろうね?」(過去・肯定)
  「今後,できるようになるには,どうすればいいかな?」(未来・肯定)
  「どのようなことに注意して進めようと思っているか,聞かせてくれる?」(未来・肯定)
④ まず,答えやすい質問から
・尋ねやすい質問が答えやすい質問とは限らない。
⑤ どうしたいのかについて,時間をかけて質問していき,行動変容につなげる
⑥ 答えを誘導するような質問を避ける

事例2:自信過剰で一人で突っ走ってしまうスタッフ

1)周りの意見を聞かず一人で仕事を進めてしまうNさんへのアプローチ
ユニットケアに取り組んで間もない介護主任Kさんは,各ユニットのリーダーを研修に出しました。研修の報告会を終え,今後の取り組みについて話し合ってしばらくたったころのことです。
ユニットリーダーのNさんのやり方に対して,スタッフから「Nさんは,勝手に決めて進めようとする」という報告がありました。ほかのユニットのリーダーからも,「急ぎすぎる」「ユニット内のスタッフは納得していない」など報告がありました。
K主任は,「スタッフが自分で感じて考えて行動し,改めることこそがユニットケアスタッフに必要な姿勢だ」と考えていたため,次の2点をNさんに気づかせる目的で,コーチングを行いました。
① Nさんがユニットケアの意図を明確にできる。
② Nさん自身が自分の強みを自覚し,周囲に肯定的な影響を与えることが大切であることを知る。

K主任:
時間をつくってくれてありがとう。研修から帰ってからのNさんは、やる気満々だからうれしい限りよ。新しい取り組みの進み具合を聞かせてほしいのだけれど、どんな状況かな?
Nさん:
研修施設での素晴らしい取り組みにカルチャーショックを受けました。それなのにスタッフがついてきてくれないので、何とか自分が引っ張っていかなければならないと思って焦っています。

そこでK主任は次の質問をしました。

K主任:
ユニットケアに求められているものって、Nさんはどんなことだと思っているのかな?それから、Nさんは具体的にどんな形で実践しているかな?

Nさんは、教科書にあるような表現でユニットケアについて説明をしました。また、チームのメンバーがあまり協力的でなく、課題が進まないので、自分だけどもやろうとしていることも口にしました。

K主任:
どれも大切な過大よね。Nさんが急ぐ気持ちはとてもよくわかるよ。“その人らしく過ごせる”というのは、「一人ひとりの生活が大切にされている」ということだけど、もし、Nさんが利用者だとしたら、スタッフにどんなふうにされると大切にされていると感じるかな?
Nさん:
スタッフは少人数で、いつも忙しそうに動いています。もし自分が利用者だったら、そばに来てもっと話を聞いてほしい、もっとかかわってほしいと感じると思います。
K主任:
もっとかかわってほしいと思うのね。
Nさん:
はい、今取り組んでいることもよいことだと思うけれど、利用者の立場だったらもっとかかわってほしいと思うのではないでしょうか。
K主任:
なるほど、大切なことですね。利用者はほかにどのようなことを思っているのかしらね。
Nさん:
そうですね…(しばらく沈黙)。こうやって考えると、利用者が今の自分たちをどんなふうにかんじているのかわかっていないですね。
K主任:
そうですか。今話していて、何かはっきりしたことはあるかな?
Nさん:
利用者の目線で自分たちをみることが大切だということがはっきりしてきました。
K主任:
利用者側から自分を見るという、視点の切り替え方はさすがだね。私がNさんの一番いいなと思うところは、自分で感じて考えて行動できるところよ。そのことに加えて、今以上に自分自身を成長させるために改善することができると、もっと素晴らしいと思うんだけど。
Nさん:
ありがとうございます。でも、改善するってどういうことをですか?
K主任:
もちろん、いまのNさんも素晴らしいと思っている。だけど、さらにあなたに成長してもらいたいと思っているから考えてほしいことがあるの。そのことを少し話してもいいかな?

K主任は、周りのスタッフやほかのユニットのリーダーから聞いたことと併せて、K主任自信が感じていることを正直に伝えました。

K主任:
Nさんはリーダーとして、とても影響力があるのよ。その力を肯定的に使うのも使わないのもNさん次第だと思うの。その力をみんながうまくいくために使ってほしいと私は思っているのだけど、あなたはどう思う?
Nさん:
焦りすぎていて、みんなの気持ちをなおざりにしていたんですね…。
K主任:
Nさん、私の伝えたいことをわかってくれてありがとう。では、これから最初に何から取り組みますか?
Nさん:
スタッフに迷惑をかけていたことを謝ります。それから、よく話し合って進めていきます。
K主任:
やってみてどうだったか、1週間後に聞いてもいいかな?
Nさん:
はい。お願いします。

「指示・命令型」ではなく「質問型へ」

 物事が日々急激に変化している昨今,これまでのような「指示・命令型]のマネジメントでは,人はついてこなくなっています。ハイスピードで変化する時代に素早く対応し,生き残っていかなくてはならない時代に入っているからです。そのためにこれからの病院や施設に求められるのは,「自ら考え,動くことができる自立した人材」です。
 しかし,多くの上司は,そのことを頭では理解していながら,実際には「指示・命令型」のマネジメントをしている場合が多いのです。これでは,部下は人から言われないと動けない「指示待ち」の人材になってしまいます。また,仮に部下が「はい」と答えても,人は本能的に指示されることを好みませんから,多くの場合,真の同意を得られているかどうかはわかりません。
 自立した部下を育てるためには,「答えを教える」のではなく,「相手の中の答えを引き出す」という方が有効です。長期的に質問を投げかけて答えを引き出すコーチングを続けると,部下は答えを見つけようとし,話すことによって考えが整理され,気づきが深まります。人は,指示されたり答えを教えてもらったりした時ではなく,自分で気づいたり答えを出したりした時に自発的に行動を起こしたくなるのです。

‐次回は,「利用者からの評判はよいが,仲間からの評判が悪いスタッフ]「無気力で惰性で仕事をしているスタッフ」に対するコーチングの仕方を掲載する予定です。


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